教えて! バーボンセイアせんせー!
モモイ「うあー! もう嫌だー!!」
ミドリ「手が……手が動かない……」
ユズ「ふ、二人とも、大丈夫?」
アリス「アリスはもうHPがありません……」
モモイ「そもそも作業量が多すぎ! 誰だよゲーム化しようって言いだしたの」
ミドリ「最初に言い出したのお姉ちゃんじゃんか」
モモイ「やだ! 正論は聞きたくない!」
ユズ「で、でも大筋は出来てるんだし、あとはバッドエンドを詰めていくだけだよ」
モモイ「それが嫌なんじゃんかー。ルート分岐ミスったらバッドエンドになるのばっかりだもん」
ミドリ「たしかに、気が滅入るのは分かる……」
モモイ「だいたいキャラ多すぎ。このトリニティのセイアとかCV付けれてないのだって山ほどいるし。個性が生かせてないじゃん。なんなの予知って? 全然予知できてないしすぐに直感に変わっちゃうし」
ユズ「そ、そうだよね。ゲームバランス考えるのきついよ……」
アリス「アリス知っています。セクシーチビ狐先輩は運動ができないのに特殊能力も使いこなせていないクソザコです! でもセクシーって何ですか?」
ミドリ「ちょっと誰!? アリスちゃんに変なこと教えたの!?」
モモイ「どうでもいいじゃん。そんなことより、似たようなバッドエンドばっかりで疲れた。せっかく予知なんて能力あるんだから、悪化してから動くんじゃなくてもっと前から変えたら良くなるんじゃない? ほら予防になってハッピーエンドにつながるかもだし」
ユズ「気分転換には良いかも……で、でもどこまで遡ればいいんだろう?」
アリス「はい! アリスはホシノ先輩が入学するところからやりたいです!」
ミドリ「ただでさえきついのに、本編開始までどれだけかかると思ってんの。なしなし」
モモイ「じゃあ試しに砂糖が広まるちょっと前くらいからにしてみよっか」
ユズ「う、うん。それくらいなら変化も分かりやすいかも……」
モモイ「よーし! Heyスパコン! トリニティで砂糖が広まるちょっと前くらいからセイアを動かしてみて!」
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エデン条約に絡む一連の事件が幕を閉じ、百合園セイアという少女が予知という能力を失った日。
彼女は最後の予知を、キヴォトスを混乱のるつぼへと落とす災害を知った。
「……ハナコ」
「はい♡ どうしましたかセイアちゃん?」
そして目の前の少女が災害の一端を担うほどの存在であることも、予知は警告してくれた。
「どうしてこんなことをした? いや……するんだ? と質問を変えた方がいいか」
「質問の意図が見えませんね」
セイアの問い詰める声にも動揺することなく、ハナコはニコニコと笑っていた。
「とぼけなくても良い。持っているんだろう? 『砂糖』を」
「……ばれてしまいましたか。びっくりさせようと思ったんですけど、セイアちゃんにはお見通しですね」
「ハナコ、それは麻薬だ。聡明な君なら理解できていたはずだ。どうしてそんなものに手を出す? あまつさえそれを広めようとするなんて、君らしくない」
「私の目的も分かっているのでしたら、どうしてそんなことを聞くんですか? セイアちゃんこそ、らしくないですね。いつもならもっと会話を楽しむはずです」
「君は! ……君は、ミカを狙っているのだろう? ああ確かに、らしくないだろうさ。友達が危険な目に会おうとしているのを見過ごすなんてできない」
「愛されていますね、ミカさんは……嫉妬してしまいます」
「っ!?」
小さく漏れたハナコの声に、セイアの背筋が粟立つ。
まずい、と体が叫んでいる。何がまずい?
逃げろ、と体が叫んでいる。何故逃げる?
初めての感覚に戸惑うセイアに、ハナコが一歩距離を詰める。
「ねえセイアちゃん。ミカさんが心配ってことは、私は心配じゃないんですよね? ミカさんを助けたいと思っているのなら、私は要らないってことなんですよね?
「は、ハナコ? 何を言って……」
「ミカさんが大事な友達なら、私はもう友達じゃないってことですよね?」
「違う! そんなことは言って――」
「じゃあどういうことですか!?」
否定しようと声を上げたセイアを黙らせるように、ハナコが叫んだ。
先程まで笑顔だったはずの顔からは、大粒の涙が流れていた。
「ミカさんは魔女です。セイアちゃんを傷つけて殺そうとした。だから私は許せない。でもセイアちゃんは許そうとする。そんなの納得できない! だから私は砂糖を広めると決めたんです」
「ハナコ……でもそれは悪手だ。そんなことをしては……もう友達ではいられない」
「セイアちゃん、もうそんな時期はとっくに過ぎているんです。止まれないし、止まるつもりもないんです」
涙をぬぐって笑うハナコ。
傍から見れば、悲しみを乗り越えて気丈に笑う少女にしか見えないだろう。
その手に載せられた悪意の塊さえなければ。
「……な、これは!?」
「逃げないでください♡」
ハナコの掌に載った飴玉を見て後退りしようとしたセイアだったが、それは叶わなかった。
細長い、紐のような何かがセイアに巻き付いている。
振りほどこうとするが、セイアの非力な腕力ではどうすることもできない。
「さっきも言いましたよね。セイアちゃんらしくないって。体の弱いセイアちゃんが、助けも呼ばずにたった一人でどうにかしようだなんて、そんなにも舐められているとは思いもしませんでした」
「ひっ」
「友達じゃない? いいです。喧嘩しましょう。そしてその後には『砂糖』たっぷりの甘いお菓子で仲直りしましょう?」
「嫌、やだ、やめて……やだぁあああああ!」
暴れてもどうにもならない現状に、涙を浮かべて声を上げるセイア。
ハナコはそれを見ながら恍惚とした表情で飴玉を口に含み、動けないセイアに口付けた。
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セイア「で、私が生まれたってわけ」
ナグサ「はぁ? ……なんで私がまた呼ばれてるの?」
セイア「君、この間はずいぶんと飲み食いしてくれたじゃないか」
ナグサ「……え? まさかお金とるの?」
セイア「いやいや、金銭を求めるようなことはしないとも。だが少し手伝ってもらおうと思って、こうしてご足労いただいたというわけだ」
ナグサ「手伝いって……さっきのやつ?」
セイア「その通り。メタ的にいうと私たちで『教えて! アリスせんせー!』のようなことをやってみよう、という企画だ。私の特性を活かして、バッドエンドを夢のように見てみるのさ。夢の中だから実害もゼロだしカロリーもゼロ。そのあと私たちで補足を入れたり問題点を考察したりして衝撃を和らげるんだね。さっき見てもらったのは、メインを鑑賞する前のサンプル動画のようなものだ。みんなもサンプル動画、好きだろう?」
ナグサ「よく分からないけど……どうして私?」
セイア「まさか紅茶やロールケーキで満足せずに焼き鳥まで頼んで、さらに150本も食べたのは君が初めてだ。その図太さがあるなら、少々きつい描写があっても大丈夫かと思ってね」
ナグサ「うう、アヤメ……変な狐がいじめる」
セイア「今回のバッドエンドを補足すると、ゲーム開発部は私を積極的に行動させようとしたのだが、その理由付けとして最後の予知夢で砂糖に沈むキヴォトスを見てしまったから、ということが設定されたわけだ。つまり私は本来の世界だと色彩の襲来を警告する予知夢を見るはずだったが、この世界だと色彩は現れず、危険度の優先順位が入れ替わった。ここが分岐点だな。シロコテラーは1人しかいないから当然のことだが」
ナグサ「つまり、色彩がいなかったからセイアは早合点して行動してやられちゃった、ってこと?」
セイア「身も蓋もない言い方をすればそうだね。今回の問題点としてあげるのなら『心配なのは分かるけど1人で会いに行くのは止めましょう』というところかな。最初だしこんなものでいいだろう。……ああ、別にハナコのことは怒っていないよ? あれは砂糖を摂取したきっかけでしかないし、その後我慢できずに砂糖を食べ続けたのは私の意志だからね」
ナグサ「ふーん……てっきり寝たきりになったから後悔しているのかと思った」
セイア「まさか! 先日だってハナコの誕生日に夢の中でデートしたしね」
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モモイ「……」
ミドリ「……」
ユズ「……」
アリス「うわーん! ちょっとタイミング変えただけなのに、セイアが砂糖中毒で廃人化してもっと悪化しました!」
モモイ?「FATALITY……」
ミドリ「……どうする、これ?」
ユズ「……ボツで」